「それは、隊長命令」 487 様
「…だりぃ…」

目を覚ましたクルルは、己の体が異様に重い事に気付き、忌々しげに呟いた。
それでも、のそりと起き上がる。

今日中に造ってしまいたいものが、あったのだ。


  それは、隊長命令。


「ヤッフー!頼んでたアレ、出来たんだって?」

クルルからの通信を受けて、ケロロが上機嫌でクルルズ・ラボを訪れた。

「ああ、そこに置いてあるだろ。持ってきな」

おもちゃの銃にしか見えないそれ−簡易重力制御装置−を指し示し、クルルは言った。
スキップをしながら近付いたケロロは、銃を手に取り、眺めまわし、何故かくんくん、とにおいを嗅いだ。
そして、銃を同じ場所に置く。
持って帰らないのか、とクルルが尋ねる前に、ケロロがクルルに飛びついて来た。

「サンキュークルル!これで我輩、お布団干しがラクラクにできるであります!
 干したお布団ってチョー気持ちいいもんねえ! お日さまって偉大…」

クルルに抱きついてぐりぐりと頬ずりをしていたケロロは、ある事に気付いて言葉をとめた。
おもむろに、クルルの額に手を当てる。

「…クルル、熱ない?」

「ク…」

クルルがしまった、という顔をした。
熱があると言っても、平均体温からすればどうという事のない温度だったから、
気付かれることはなかろうと高をくくっていたのだ。

平熱が常人よりもかなり低いクルルにとっては、だいぶつらいものがあったのだが。

「ちょっとした宇宙風邪だ。大したこたねぇよ、薬だって飲んだしな」

クルルがぶっきらぼうに言う。
心配されたり気を使われたりするのが鬱陶しいから、勘付かれまいと思っていたのだ。

「なーに言ってんの!ダミだよ、ちゃんと寝てなきゃ!」

そう言って、ケロロはクルルをひょいと抱き上げた。

「ちょ…降ろせよ隊長!」

ケロロは聞かず、クルルの寝床がある押入れへと突進する。
布団の上にクルルを横たえさせ、問答無用で上から毛布を掛けた。
冷凍庫に突っ込んであった保冷剤をタオルで巻き、枕代わりに敷く。
どこからか持って来たひえぴたシート(子供用)をクルルの額に貼り付けて、ふぅ、とため息をついた。
普段家事をやり慣れているせいか、こういう時のケロロは、やたら手際が良い。

「どっか痛いトコない?のど乾いてない?あ、りんごすってこようか?」

立て続けにケロロが尋ねる。クルルはクヒ、と苦笑いした。

「大した事ねぇっつったろ。どこも痛かねぇし喉は乾いてねぇし腹も減ってねぇ」

「ん、分かった。でも今日は1日寝てること。これは隊長命令であります!」

そして、ペットボトルのお茶と小さな通信機をクルルの枕元に置いた。

「じゃ、我輩は戻るけど。なんかあったら呼ぶでありますよ。
 気持ち悪くなったりとか、ジュース飲みたくなったりとか、お腹すいたりとか」

「あー、りょーかいりょーかい」

クルルは諦めて、投げやりに答える。
ケロロは小さな子供をあやすように、毛布の上をぽんぽん、と軽く叩いいた。

そしてクルルの顔を覗き込んで、にやりと笑う。

「なんにもなくても、寂しくなったら呼んでいいであります」

「…ぜってー呼ばねぇ」

クルルはごろりと寝返りをうち、ケロロに背を向けた。

「しょーがねぇから今日は大人しく寝ててやるよ。とっとと帰んな」

「ん、早く良くなるでありますよ。
 でないと、クルルのお布団を干せないでありますからなあ」

クルルの背に向かって、ケロロは言った。

「夕飯にはカレー味のおじや持ってきてあげるね。おやすみ、クルル。」

ぱたんと、襖が閉められる。
直後、ラボのドアが開閉する音が襖越しに聞こえ、ケロロが出て行ったのが分かる。

「…かなわねぇなあ、アンタには」

クルルはクク、と笑い、隊長からの命令を遂行すべく、目を閉じた。


      end.
クルルって、表には出さないけどケロロの事大ッ好きだと思います。
心配されるのは鬱陶しいと思いつつも、実はすごい嬉しかったりするんじゃないかと(笑)